水処理技術一覧

有機溶剤除去

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日本初の有機溶剤除去装置

エアーストリッピング装置(有機溶剤気散除去装置)   

 

日本最大施設 180m3/h× 24h × 5基 = 21,600 m3/d( 高槻市大冠浄水場)平成 2年 3月竣工

当時、殿界は水道部職員として除去実験機を設計・提案。実装置の基本設計を行った。  

 

  除去率 測定 記録濃度    
トリクロロエチレン 99.9%以上 100μg/L → 処理後 1.0 μg/L以下
シス-1.2-ジクロロエチレン 99.9%以上 80μg/L → 処理後 1.0 μg/L以下
1.2-ジクロロエタン 98.5%以上   20μg/L → 処理後 0.3 μg/L以下

実験塔による有機塩素化合物の除去率

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実験塔(直径200mm、高さ6m)による結果

 

【処理水量】

送風量が61.2倍という条件のもとで、充塡塔高さ(処理時間)による物質ごとの除去率の上昇を調べた

ジクロロエタンは、旧装置の高さ3mでは除去率が88%で処理能力が不足し、高さ5mでも気液比を上げなければ、処理目標の1μg/L以下を達成できない。

エアーレーションタワーの稼働とジクロロエタンの除去持続特性

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改良したエアレーションタワーによる除去率の経年変化

稼働後3年に近づくと除去率が低下傾向を示すので、2年ごとに塔内上部の充塡材を取り出し、水で洗浄すると除去率は完全に回復する。

オンライン水中VOC測定装置

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飲料水源としての地下水

①ライフラインの確保と地下水資源

水道の水源を種類別にみると、ダム36.9%、河川水33.0%、地下水系は深井戸と浅井戸および伏流水の合計で25.5%である(図1)。また工業用水の34%は地下水に依存している。このうち、ダムの比率は年々増加傾向にあるが、近年では、水資源をめぐる社会的状況に変化の萌しが見えてきた。

第1に高齢化や出生率の低下による人口動態の変化、第2に米作の減反や用水多消費型工業の構造転換、および経済の低成長による余剰水問題、第3に水の再利用、循環システムの導入と雨水利用など、省エネルギーと節水型社会を指向する政策は、福岡県や東京都などで着実な成果を上げている。

最後に、防災や渇水など水道のリスク管理、ライフライン確保の問題である。1995年1月の阪神大震災で再認識されたのは、地震などに伴う緊急時の消火には、遠くの水源より近くの水源が、単一の水源でなく多元の水源が必要不可欠であるとの教訓であった。その意味で、地下水の存在が改めて注目されるようになった。量的に有限である地下水の長期的な利用を保証するためには、それが公共用水として扱われる必要がある。

 

②水源の水質環境の悪化と水質管理

(1)WHOなどにより、飲料水基準の見直しが国際的に進むなかで、わが国の水道水質基準も26項目から46項目に増加され、また新たに26項目の監視項目を設けるなど、大幅に改正された(1993年12月施工)。今回の基準改正の目的は、水道水中の塩素副生成物(TOX)など微量化学物質による慢性毒性、とりわけ発がんリスクの低減化にあった。新基準の根拠は、WHOなどのデータを参考に10¯⁵~10¯⁶の発がんリスクに定められた(注1)。

 

(2)現在、水源の水質環境は悪化の一途を辿っている。安全でおいしい水道水をつくるためには、いまの水源水質にどのような障害があるかを表1に示した。この表のうち①~③の物質は水に溶解性なので、凝集・沈殿・ろう過という従来の浄水処理法では除去できない。

これらの物質を除去し、より安全でおいしい水道水をつくるために、オゾン・活性炭による高度浄水処理の導入が全国で進められている。すでに一部では給水が始まっているが、全国の高度浄水処理導入計画の建設費の総額は、5,000億円にも及んでいる。

 

(3)1994年5月に、原水の水質保全に関わる2つの法律が施行され、次には環境庁からフミン酸の発生源規制がだされる。現在の水源水質には、水源の飲料リスクを考慮した環境保全の対策強化が何よりも急がれている。

 

③地下水源の水道水は飲料リスクが小さい

表2は、水道水中の塩素副生成物(TOX)について水源種別に調べたものである。地下水源の水道水はTOX濃度が最も低く、高度浄水処理水以上に飲料リスクの小さい、安全でおいしい水道水であることがよく分かる。

水質基準値をクリアした水道水であっても、変異原性試験(注2)をすると、水によって水質に差が生じてくる。この理由には、汚濁や汚染度の違いのほか、複合汚染の影響も考えられている。そのため水道水質の客観的な評価法として、変異原性試験など飲料リスクによる水質管理の必要性が指摘されている。こうした方法がとられれば、水道水源としての地下水は、さらに高い評価を得るだろう。

 

④高槻市における地下水汚染とその再生

高槻市では、人口36万5千人のうち、約30%にあたる11万人の市民に地下水系の水道水を給水している。地下水汚染には、人為に起因するものと自然地質紀因の汚染があるが、後者の汚染として高槻市の場合にはヒ素による汚染がみられる。この物質は、現行の浄水処理により除去できる。

人為による汚染が大きな問題として生じたのは、有機塩素系溶剤による地下水汚染であった。この物質による地下水汚染が全国的規模の問題と分かったのは、1981年に厚生省が実施したトリハロメタン(THM)の全国調査がきっかけであった。高槻市の大冠浄水場の地下水汚染もこのときに判明したが、混合原水のトリクロロエチレン(TCE)濃度が0.1mg/Lという高濃度であったこと、給水人口が約11万人に及ぶ大規模な汚染という2つの特徴をもっていた。

高槻市水道部は苦心の末、1982年9月にエアーストリッピング法によるTCE除去法を開発し、厚生省から実験装置の承諾を受け、1983年7月に本装置を竣工(実処理水量900㎡/h)させた。除去装置の稼働は、アメリカのシリコンバレイのそれよりも早かったものである。翌年の1984年2月に、厚生省はTCEの暫定水質基準値0.0mg/L(1993年12月から水質基準)を発表したが、それと同時に、この処理法を公定法として認めた。これにより、本装置は全国で活用されるようになった。

その後、高槻市では、TCEと同じく揮発性で、有害な有機塩素化合物である1,2-ジクロロエタン(1,2-EDC)およびシス-1,2-ジクロロエチレン(cis-1,2-DCE)によって地下水が汚染されている事が判明した。そのため実験塔による除去実験を行い、これらの有機塩素化合物の除去率を向上させるため、処理装置の送風量をアップし、気体/液体の比を60倍から100倍に引上げ、すべての汚染物質を1㎍/l以下に除去してきた(図2・図3)。この改良装置は、1989年9月に地下水の高度浄水処理の第1号に厚生省から認可された。

 

注1)発がんリスク10のマイナス5乗とは、基準値の濃度の水道水を一生飲み続けたときの発がんの確率が10万分の1、という意味である。

 

注2)変異原性試験とは、化学物質などが細胞の遺伝子に作用して本来の遺伝的な性質を変えることをいい、変異原性は発がん性と高い相関関係がある。

 

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出典:URBAN KUBOTA  No.34

発行日:1995年9月